介護の研修資料、AIに任せてよい範囲|うちの事例と実施の記録は人が入れる
来週が研修の日です。資料は、まだできていません。
去年のファイルを開きます。表紙の日付を書き換える。それで、資料はできあがります。
中身は、たぶん3年前から変わっていません。
この記事では、介護事業所の研修資料づくりを「型」と「うちの話」に分けて考える方法をお伝えします。分け方が決まれば、AIに任せられる部分もはっきりしてくるはずです。
先にお伝えしておきます。研修が上手くいく方法の記事ではありません。
お渡しするのは、資料づくりの手順を組み替えるための形です。
研修の担当を専任で置いている事業所は多くありません。現場と兼務したまま、隙間時間で回せる範囲に絞ってお伝えします。
介護の研修資料づくりに、時間が取れない
資料がないわけではありません。あるけれど、中身が更新されていない。多くの事業所で起きているのは、そちらです。
まず、そこから確認させてください。
資料はある。中身は3年前のまま
研修担当を任されている管理者の方から、こんなお話を伺うことがあります。
感染症の研修は、毎年やっている。資料もある。ただ、その資料を最後に作り直したのがいつだったか思い出せない。
スライドの構成は変えていません。厚生労働省の資料から引いてきた図がそのまま入っている。事業所の名前と日付だけが、毎年書き換わっていきます。
やっていないわけではありません。やっているけれど、中身が止まっている。
この状態は、誰にも言っていないことが多いようです。実施記録には「感染症の予防及びまん延の防止について」と書ける。参加者の署名も揃っている。書類としては、何も欠けていません。
それでも、日付を書き換えるときに一瞬だけ手が止まる。あの数秒のことを、この記事では扱います。
作り直せないのは、時間の問題だけではない
時間がないのは、そのとおりだと思います。
ただ、時間があったとして、何から手をつけるかがはっきりしているでしょうか。
制度の説明を書き直すのか。事例を差し替えるのか。テストを作るのか。全部やろうとすると、半日では終わりません。
結果として、いちばん手前にある「日付を変える」だけが実行されます。これは怠慢ではなく、作業が分解されていないまま、まとまった時間を要求される形になっているためです。
この記事でやるのは、資料を2つに分けることです
やることは単純です。研修資料を、次の2つに分けます。
・型──制度の説明、研修の構成、理解度確認テスト、資料の体裁。AIに下書きを任せられます
・うちの話──自事業所で実際に起きたこと、法令の最新性の確認、実施の事実。人が入れます
この線が引けると、「まとまった時間が取れないから手をつけられない」という状態を崩せます。型の部分は、下書きが出てくるところまでは進むからです。
ひとつ、先に書いておきます。AIを使えば作業がなくなるわけではありません。出てきた下書きを読み、自事業所の実情と合っているかを確かめ、法令の記述を確認する時間は残ります。変わるのは、白紙から書き起こす代わりに、下書きを直すところから始められる点です。
あわせて、研修の記録についても触れます。ここは資料づくりとは別の話で、この記事でいちばん間違えてほしくない部分です。
研修資料は、どこまでAIに任せてよいか
任せてよいのは型までです。うちの事例と、実施の事実は人が入れます。
ここが記事のいちばん大事な部分です。
分け方は「型」と「うちの話」
研修資料を作る作業を並べてみます。
制度の説明を書く。何を何分でやるか組み立てる。事業所で起きた出来事を教材の形にする。理解度を確かめる問題を作る。スライドの見出しを整える。当日に配る資料の体裁を揃える。
このうち、自事業所を知らなくても書けるものと、知らないと書けないものがあります。
制度の説明は、自事業所を知らなくても書けます。研修の構成も、理解度確認テストも、体裁も同じです。これらが「型」です。
一方、去年うちで起きたヒヤリハット、うちのフロアの動線、うちの職員が実際に迷っている場面。これらは、知らない相手には書けません。これが「うちの話」です。
AIは前者を出せます。後者は出せません。もっともらしい事例を出すことはできますが、それは架空の事例です。架空の事例を「うちで起きたこと」として研修に使うことはできません。
3つの段階でいうと、どこにあたるか
このシリーズの第1回では、AIに入力してよい情報を3つの段階に分けて整理しました。
・段階1:個人情報を含まない文書。今日から始められます
・段階2:条件を整えれば広げられる領域
・段階3:条件を整えても慎重にすべきもの
研修資料の型づくりは、段階1にあたります。制度の説明も、研修の構成も、理解度確認テストも、個人情報を含めずに作れるからです。
ただし、段階1にあたることと、そのまま使ってよいことは別です。事業所として決めたAIの利用ルールと、使うサービスの利用規約・設定を確認したうえで使ってください。出てきた下書きを、法令の記述と自事業所の実情に照らして確かめる作業も残ります。
もうひとつ、注意があります。自事業所の事例を教材にするとき、渡す材料に個人情報が混ざる点です。ヒヤリハット報告書や事故報告書には、利用者さんの氏名、居室、心身の状況が書かれています。
ここは後半で扱いますが、先に結論だけ書いておきます。報告書をそのまま貼り付けないでください。人が特定できない形に直したものを渡します。
入力してよい情報の線引きそのものは、介護事業所のAI活用、始める前に決める3つのことで解説しています。事業所としてのルールをまだ決めていない場合は、先にそちらをご覧ください。
先に、一線を書いておきます
この記事を通して、ひとつだけ守っていただきたいことがあります。
AIで資料は作れます。ただし、やっていない研修を記録にはできません。
当たり前のことに見えると思います。ただ、資料づくりが速くなると、この2つが近づいて見えることがあります。
立派な資料が手元にある。構成も整っている。理解度確認テストまで付いている。それを見ていると、研修そのものも済んだような感覚になる瞬間があります。
資料があることと、研修を実施したことは別です。実施したことと、実施の事実を記録に残すことも別です。この3つを分けたまま持っておいてください。
AIに任せられる研修資料の4つの部分
自事業所を知らなくても下書きが作れる部分から始めます。
出てきたものは当日までに読み直し、法令の記述と自事業所の実情に合わせて直してください。具体的に何を頼めるかを見ていきます。
最初に試すなら、この4つ
・制度の説明:何のための研修か、事業所に求められていることは何か。職員向けの言葉に直してもらう
・研修の構成:30分なら何を何分でやるか。導入、説明、演習、確認の配分を組んでもらう
・理解度確認テスト:説明した内容から、選択式や記述式の問題を作ってもらう
・資料の体裁:スライドの見出し、配布資料の目次、当日の進行メモ
このうち、いちばん効くのは研修の構成だと思います。
資料づくりが止まるのは、多くの場合「何をどの順で話すか」が決まっていないからです。順番が決まれば、あとは埋める作業になります。埋める作業は、細切れの時間でも進みます。
理解度確認テストは、作るのが面倒な割に効く
理解度確認テストは、後回しにされやすい部分です。作るのに時間がかかるからです。
ただ、テストがあると研修の受け止め方が変わります。聞くだけの時間から、答える時間になるためです。
ここはAIが得意な部分です。説明した内容を渡せば、確認の問題は出てきます。5問なり10問なり、必要な数だけ出せます。
出てきた問題は、そのまま使わずに読んでください。自事業所の実情と合わない選択肢が混ざることがあります。設備のない機器の話、配置していない職種の話、実施していない手順の話。ここは差し替えます。
任せられないのは、この3つ
逆に、AIに渡してはいけない部分、渡しても意味がない部分があります。
・自事業所で実際に起きたこと:AIは知りません。もっともらしい事例は出てきますが、架空の事例です
・法令の最新性の確認:AIの回答は、いつ時点の情報かがはっきりしません。条文・通知の確認は人がやります
・実施の事実の記録:やっていない研修は記録にできません。ここは作業ですらなく、事実の問題です
この3つは、それぞれ後半で扱います。
コピーして使える研修資料のプロンプト例(3種)
そのままコピーして、◯の部分を自事業所の内容に置き換えてお使いください。
例1:研修の構成案
介護事業所の職員向け研修の構成案を作ってください。
【テーマ】◯◯(例:感染症の予防及びまん延の防止)
【対象】◯◯(例:介護職員、看護職員。経験年数はばらつきがある)
【時間】◯分
【実施形式】◯◯(例:会議室で講義形式。スライドを投影できる)
条件:
・導入、説明、演習、理解度の確認の配分を分単位で示す
・専門用語は職員向けの言葉に直す
・自事業所の事例を入れる箇所は「【事例】」と空欄で示し、
内容は書かないでください
・効果を約束する表現は使わない
例2:制度部分の説明の下書き
介護事業所の職員向けに、次のテーマの説明文を作ってください。
【テーマ】◯◯(例:身体的拘束等の適正化)
【文量】◯字程度
【前提】聞き手は制度の背景を知らない職員
条件:
・です・ます調
・「なぜ求められているのか」から入る
・回数や期限などの数値は書かないでください。
該当箇所は「【要確認】」と示してください
・出典が示せない統計や数値は入れない
例2で数値を書かせない理由は、次の「研修の回数は、どこで決まっているのか」で説明します。
例3:理解度確認テスト
次の説明内容から、理解度確認テストを作ってください。
【説明内容】
(研修で説明する内容を貼り付ける。個人情報は含めない)
【問題数】◯問
【形式】◯◯(例:三択5問+記述1問)
条件:
・説明内容に書かれていることだけから出題する
・現場での判断を問う問題を1問以上入れる
・解答と、なぜそうなるかの短い解説を付ける
・特定の製品名や機器名は使わない
出てきたものは、そのまま使わず、必ず自分で読み直してください。事実の誤り、自事業所の実情と合わない記述、言い回しの違いが残っていることがあります。
研修の回数は、どこで決まっているのか——省令・解釈通知・条例
研修の回数について、AIが出した数字をそのまま資料に書かないでください。省令の条文には、回数が書かれていないものが多くあります。
ここは実際に条文を確認したうえで書いています。
省令は「定期的に」としか定めていない
先に、根拠の置かれ方を整理させてください。ここが分かると、確認先を間違えなくなります。
指定居宅サービスの設備及び運営に関する基準は、都道府県の条例で定めることになっています(介護保険法第74条第2項)。そして都道府県が条例を定めるときは、厚生労働省令で定める基準との関係が3つに分かれます。「従い」定める事項、「標準として」定める事項、「参酌する」事項です(同条第3項)。
条例を定める主体は、サービスの区分で変わります。地域密着型サービスについては、市町村の条例で定めることとされています(同法第78条の4第2項)。認知症対応型共同生活介護、小規模多機能型居宅介護、地域密着型通所介護などが該当します。
つまり、実際に自事業所へ適用されるのは条例のほうで、省令はそのもとになる基準という関係です。確認先は、居宅サービスなら都道府県、地域密着型サービスなら市町村になります。この記事で省令を引くのは、もとになる基準の書きぶりを確かめるためです。
その省令が「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)です。研修について書かれている部分を確かめました。
・感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練を定期的に実施すること
・虐待の防止のための研修を定期的に実施すること
・業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない
・身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること
いずれも「定期的に」であり、回数は書かれていません。
一方で、回数が明記されている部分もあります。ただしそれは研修ではなく、委員会の開催頻度です。しかも、どのサービスに置かれているかが違います。
・感染症の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会「おおむね六月に一回以上」
…訪問介護(第31条)、通所介護(第104条)などに置かれています
・身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会「三月に一回以上」
…短期入所生活介護(第140条の7ほか)、特定施設入居者生活介護(第183条)などに置かれています。訪問介護・通所介護の規定にはありません
つまり、省令が回数で縛っているのは委員会のほうで、研修の回数は条文に書かれていない。しかもその委員会の規定も、サービスによって置かれていたり、いなかったりするという構造です。
では、よく見る「年2回以上」は何なのか
研修の頻度として示されている数字は、省令の条文そのものではありません。サービス種別ごとの解釈通知で示されている場合があります。解釈通知は国が示すものです。
ただし、先に書いたとおり、実際に適用される基準は条例です。あわせて、指定権者の手引き・案内には、確認の方法や様式、地域の運用上の留意点が示されている場合があります。
整理すると、こうなります。
・省令:研修は「定期的に実施」。回数の定めがないものが多い
・解釈通知:サービス種別ごとに、具体的な頻度が示されている場合がある
・条例:実際に適用される基準。居宅サービスは都道府県、地域密着型サービスは市町村
・指定権者の手引き・案内:確認の方法・様式・運用上の留意点
国の解釈通知だけで判断せず、自事業所の指定権者が示す条例・手引き・案内もあわせて確認してください。
この記事で具体的な回数を書かないのは、適用の有無も頻度もサービス種別によって違うためです。ここに数字を書くと、種別の違う読者の判断を誤らせます。
回数を確かめるときは、自事業所に適用される条例・運営基準と解釈通知、そして指定権者の案内を確認してください。これは人がやる作業です。
義務の範囲も、サービス種別で違う
回数だけの話ではありません。何が義務づけられているかも、種別で違います。
条文で確かめられる例をひとつ挙げます。認知症介護に係る基礎的な研修を受講させるための措置は、通所介護については省令第101条第3項に定めがあります。一方、訪問介護について定めた第30条には、この規定がありません。
同じ省令の中でも、サービスによって求められるものが違うということです。
試しに、AIへ「介護事業所の法定研修は何がありますか」と聞いてみたとします。出てきた一覧を、そのまま自事業所の年間計画にしないでください。一般論としては正しくても、自事業所に当てはまるとは限りません。
プロンプトで数字を書かせない
先ほどのプロンプト例2で「回数や期限などの数値は書かないでください」と条件を入れたのは、この理由からです。
AIは、聞かれれば数字を出します。出てきた数字がもっともらしいほど、確認せずに資料へ入ってしまいます。
最初から数値を書かせず、空欄にしておく方法があります。そのうえで、空欄を埋めるときのルールを決めておいてください。自事業所に適用される条例・解釈通知・指定権者の案内を確認してから書く、という運用です。
うちで起きたヒヤリハットを、研修のネタに変える
準備に時間をかけても手応えがない。この徒労感は、資料の出来とは別のところから来ていることがあります。
ここは避けて通れないので、正面から書きます。
聞いてもらえていない、という感覚
研修担当の方から、この話をよく伺います。
日勤のあとに時間を取ってもらっている。疲れているのは分かる。それでも、下を向いてスマホを見ている職員が視界に入ると、準備した時間のことを思い出します。
質問は出ません。終わったあとに感想を聞いても「勉強になりました」で終わる。
来月もまた、同じ空気の中で話すことになります。
この引っかかりは、資料をきれいにしても解けません。
一般論だから、自分の話だと思われていない
下を向く理由は、たぶん内容が難しいからではありません。自分に関係があると思えないからです。
「利用者の尊厳を守りましょう」「感染対策を徹底しましょう」。正しいのですが、聞いている側は自分の明日の仕事と結びつけられません。
一方で、こういう場面では顔が上がります。
「先月、2階の廊下で起きたことを話します」
「あのとき、なぜ気づけなかったのかを一緒に考えたいと思っています」
自分がいた場所の話だからです。名前を出さなくても、職員は何のことか分かります。研修が自分の仕事の話になった瞬間に、聞き方が変わります。
型をAIに渡して、事例を集める時間にあてる
資料づくりに3時間かかっていたとして、この時間を減らせたら何に使えるでしょうか。
使えるのは、うちで何が起きていたかを思い出す時間です。
ヒヤリハットの綴りを見返す。フロアリーダーに「最近ひやっとしたことはありますか」と聞く。事故報告書を1年分めくる。
この作業には時間がかかります。そして、この作業だけは代わりがいません。
これまでは、制度の説明を書く時間と、事例を集める時間の両方を抱えていました。どちらも同じ人がやるので、片方に時間をかけると、もう片方が雑になります。
先に削られるのは、たいてい事例のほうです。制度の説明は去年のものが残っているからです。
型をAIに渡すと、事例のほうに時間を回す余地が出ます。下書きを確認して直す時間は別に要りますので、まるごと空くわけではありません。出来の良し悪しによっては、直すほうに時間がかかることもあります。それでも、手を抜いたのではなく、手をかける場所を移した。そう説明できる形になっていれば十分です。
材料は3つの綴りの中にある
教材の材料は、すでに事業所の中にあります。ヒヤリハット、事故報告、苦情の記録。探しに行く必要はありません。
ここからは、人がやる領域の話です。
研修のネタが尽きたと感じるとき、材料そのものがないことは少ないと思います。
・ヒヤリハット報告:実際に起きかけたこと。いちばん教材になります
・事故報告:起きてしまったこと。再発防止の検討と直結します
・苦情・相談の記録:ご家族から見えている景色が入っています
これらは、すでに書かれたものです。書いた人がいて、日付があって、何が起きたかが残っています。研修のために新しく取材する必要はありません。
報告書をそのまま貼り付けない
ここが、この記事でいちばん注意していただきたい手順です。
ヒヤリハット報告書や事故報告書には、利用者さんの氏名、居室番号、心身の状況、ご家族とのやりとりが書かれています。これらをそのままAIに貼り付けないでください。
基本の形は、事例の部分をAIに渡さないことです。プロンプト例1で【事例】を空欄にしていたのは、このためです。型だけ作らせて、事例は人が書き込みます。
そのうえで、事例の書き方を整えるところだけを手伝ってほしい場面はあると思います。その場合も、渡すのは報告書ではありません。人が特定できない形に直した、短い状況の要約だけを渡します。順番が大事です。AIに直してもらうのではなく、人が直したものを渡します。
渡さないものと、確かめたうえでなら渡せるものの目安です。
・渡さない:氏名、居室番号、疾患名、要介護度、その方だと分かる出来事、ご家族との個別のやりとり、担当職員の氏名
・確かめたうえでなら渡せる:「入浴介助の場面で」「移乗の際に」といった抽象化した状況、時間帯、場所の種類(廊下、居室、浴室)、起きた事象の種類
後者を無条件に渡してよい、という意味ではありません。渡す前に、2つを確かめてください。それ自体で個人を識別しないこと。そして、事業所が持っている他の記録と照らし合わせても特定につながらないことです。個人情報保護法は、他の情報と容易に照らし合わせて特定できるものも個人情報として扱っているためです。
「1階103号室のAさんが」ではなく「居室で、移乗の際に」。この置き換えを、渡す前に済ませておきます。
ただし、置き換えれば済むとは限りません。日付、場所、出来事の細かさが重なると、事業所の中では誰のことか分かります。
研修の場では、それでよい場面もあります。職員に自分たちの話だと分かってもらうことが目的だからです。ただし、AIに渡す材料としては別です。渡す前にもう一度読み返し、特定につながる要素を落としてください。
判断がつかないときは、渡さないでください。事例の部分は人が資料に書き込めば済みます。ここで無理に渡す理由はありません。
個人が特定できない形に直す考え方は、介護施設のSNS投稿、ネタが尽きたときにでも解説しています。写真と文章の扱いを整理した記事です。渡す前に人が直すという順番は共通です。
職員の受け止めにも配慮する
もうひとつ、制度とは別の配慮があります。
ヒヤリハットを教材にするとき、報告した職員が「自分の失敗が晒された」と感じることがあります。そう感じさせると、次から報告が上がってこなくなります。
研修の場では、誰がやったかではなく、どういう条件が重なったかに焦点を当ててください。担当職員が特定できる情報は、研修資料からも外します。
報告が減ることは、事故の芽が見えなくなることと同じです。ここは資料の作り方以前の問題として、先に決めておいてください。
研修記録に書けること、書けないこと
資料を作ることと、実施の事実を記録することは、別の問題です。ここを混同しないでください。
この記事で、いちばんお伝えしたい部分です。
運営指導で見られるのは、資料だけではない
厚生労働省の「介護保険施設等運営指導マニュアル」には、一覧が付いています。運営指導で確認する項目と、そのときに確認する文書の一覧です。
この一覧で、研修に関して挙げられている確認文書を見ると、次のような表記になっています。
・勤務体制の確保等:研修の計画及び実績がわかるもの
・業務継続計画の策定等:研修の計画及び実績がわかるもの/訓練の計画及び実績がわかるもの
・虐待の防止:虐待の防止のための研修の計画及び実績がわかるもの
・衛生管理等:感染症の予防及びまん延の防止のための研修及び訓練の実施状況・結果がわかるもの
注目していただきたいのは、「計画」だけでなく「実績」「実施状況・結果」が並んでいることです。
資料が立派であることと、実施したことがわかることは、別に確認されます。AIで資料を整えても、実施の事実は増えません。
記録に書くのは、実際に起きたこと
研修の記録に書く内容も、AIに作らせるものではありません。
実施日、参加者、実施した内容、使った資料。これらは事実です。事実は、起きたことをそのまま書きます。
これに加えて、次の項目は、その日にしか分かりません。運営指導マニュアルが必須項目として定めているものではなく、実施状況を説明しやすくするための記録例です。
・実際に参加したのは誰か(欠席者への対応も含む)
・当日どこまで話せたか(時間が足りずに省いた部分があれば、それも)
・出た質問と、それにどう答えたか
・理解度確認の結果と、次回に持ち越す点
このうち「出た質問」は、書いておくと次の研修の材料になります。職員が実際に分からなかったことだからです。
なお、必要な記録項目や様式は、自事業所に適用される基準と、指定権者が示している様式・手引きでご確認ください。
欠席者への対応まで含めて記録する
シフトの都合で、全員が同じ日に参加することはまずありません。
欠席者にどう伝えたかも、実施の一部です。資料を配ったのか、後日に別の回を設けたのか、読んだことをどう確かめたのか。ここを空白にしたまま「実施済み」とせず、対応した内容を残しておくことをお勧めします。
AIに任せられるのは、この記録の様式を整えるところまでです。何を書く欄が必要かは相談できます。ただ、欄を埋めるのは人の仕事です。
次の研修で、まず変えられる3つ
準備を整えるより、1回試すほうが早く分かります。次の研修までに変えられるのは、この3つです。
・1日目:次の研修のテーマを決め、構成案だけAIに出してもらう。30分の配分が出てくれば十分です
・2日目:ヒヤリハットの綴りを1年分めくり、教材にできそうな出来事を3つ書き出す。名前は書かない
・3日目:自事業所に適用される条例(居宅サービスなら都道府県、地域密着型サービスなら市町村)と、指定権者が出している手引きで、そのテーマの研修について書かれている箇所を確認する
3日目を飛ばさないでください。確認先を一度整理しておくと、AIが出した数値を確かめるときの起点になります。制度改定やサービス種別による違いがありますので、研修のテーマごとに改めて確認してください。
あわせて、記録の様式も見直してみてください。実施日と参加者だけの様式であれば、質問と持ち越しを書く欄を足しておく。次の研修の材料が、そこに溜まっていきます。
業務継続計画そのものの作り方については、作って終わりのBCPを動く計画に変えるで解説しています。BCPの研修を扱う場合は、計画本体の見直しとあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 介護の研修資料をAIに作らせても問題ないでしょうか?
Q. 法定研修は年に何回実施すればよいですか?
Q. AIが作った理解度確認テストをそのまま使ってよいですか?
Q. 研修の実施記録には何を書けばよいですか?
まとめ——型はAIが渡せる。うちの事例は人が整理する
介護の研修資料は、「型」と「うちの話」に分けるところから整理できます。制度の説明、研修の構成、理解度確認テスト、体裁はAIに下書きを頼み、自事業所の事例と実施の記録は人が入れる。
事例については、報告書をそのまま渡さず、人が特定につながる要素を落としたうえで教材の形にします。
この線が引けると、「まとまった時間が取れないから手をつけられない」という行き止まりを崩せます。
回数と根拠については、AIに聞かないでください。省令の条文は「定期的に」としか定めていないものが多くあります。具体的な頻度は、サービス種別ごとの解釈通知で示されている場合があります。適用の有無も頻度も種別によって違います。そして実際に適用される基準は条例で、居宅サービスなら都道府県、地域密着型サービスなら市町村が定めています。自事業所に適用される条例と解釈通知、指定権者の案内を、一度確認しておいてください。一度確認しておけば、以後は迷う場面が減ります。
そして、資料と実施と記録は別のものです。AIで資料は作れます。ただし、やっていない研修を記録にはできません。運営指導で確認されるのは、計画だけでなく実績のほうも含みます。
最初にお話しした、去年のスライドの日付。
あれを書き換えるとき、手が止まっていたのは、中身が去年のままだと自分で分かっていたからだと思います。型の下書きを渡してしまえば、中身に手を入れるところから始められます。次の研修が、去年と同じ内容である必要はありません。
RadiantCoCoでは、介護・医療事業所のAI活用と業務の整理をご支援しています。何から手を付けるか、事業所としてのルールをどう決めるかといった段階からのご相談も承っています。進め方に迷われている場合は、お気軽にお声がけください。
【参考資料】
・介護保険法(https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123)
・指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037)
・指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)(https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100039)
・厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shidou/index.html)
・個人情報保護法(https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)
・個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/)
・個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/)
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